大変ご無沙汰しております。
本の紹介担当のTです。
さて、本日紹介する本は、多和田葉子さんの小説「雪の練習生」です。
この小説は、自伝を書くホッキョクグマと、その娘、そして孫の、3代にわたる物語です。
ホッキョクグマが自伝を書く、と言うと、童話のような世界観を想像されるかもしれませんが、決してそうではありません。
また、第二次世界大戦後のヨーロッパを描いた物語ですが、決して政治的な小説でもありません。
あくまでも、それぞれのホッキョクグマの、個人的な人生を描いた物語であり、だからこそたぶん、読む人によってさまざまなことを感じることができる、深みのある小説になっています。
もし興味をもたれた方には、先入観抜きで読んでいただきたいので、ストーリーについてこれ以上詳しくは書きません。
この小説のもうひとつの魅力は、眩惑的でミステリアスな構成にあります。
これについても詳しく書いてしまうと小説の魅力を損ないますので、敢えて詳しく書きませんが、小説の序盤に登場する、
ものを書くというのは不気味なもので、こうして自分が書いた文章をじっと睨んでいると、頭の中がぐらぐらして、自分がどこにいるのかわからなくなってくる。わたしは、たった今自分で書き始めた物語の中に入ってしまって、もう「今ここ」にはいなくなっている。眼を上げてぼんやり窓の外を見ているうちに、やっと「今ここ」に戻ってくる。でも「今ここ」って一体どこだろう。
という文章が、この小説全体を象徴する大事なポイントになっていることだけお伝えしておきます。
ちなみに僕の感想は、「人は、(ホッキョクグマも)限られた選択肢の中で、自分の人生を精一杯、前向きに生きるしかない。」というものですが、読む人が変わればまた違ったことを感じとれるでしょう。
よい小説はそういうものだと思いますし、何年か経って再読したときに、以前とは違ったことを感じることができるのではないかと思います。
小難しく書いてしまいましたが、とにかく面白くて夢中になれる、おすすめの小説です。
是非ご一読ください。
読む時期によって感じ方が違うってありますね。
返信削除私は夏目漱石のこころを思い出しました。
この本もぜひ読んでみたいです。